使い勝手が重要です。紙の優位性を吸収する形で、電子は進歩せねばならないのです。
iPhone の国語辞典です。現在のところ、広辞苑、大辞泉、大辞林がリリースされています。私は作者さんのホームページを見て大辞林を購入しました(→物書堂)。ちなみに普段は広辞苑(紙)と岩波国語辞典(紙)を愛用しています。大辞林はといえば、イージブリッジに付いてたのをかつては使用しておりましたが、最近はOS標準の「辞書」を専ら起動しています。「辞書」には大辞泉が載っていますね。
正直なところ「縦書き」と「ヒラギノ」には心動かされませんでした。横書きの文章を読むことについてはウェブで慣らされていますし、ヒラギノ明朝の美しさはすでに「存在して当然」です。グラリと来たのは「インデックス表示」と「ジャンプする機能」。前者は「ページをめくりたい」、後者は「大事なことはそんなんじゃない」です。
書籍(紙)の情報というのは通常、先頭からシーケンシャルに読まれますが、辞書(紙)における情報は五十音をインデックスとしてランダムアクセスされます。ただ、電子情報ではないがゆえに点ではなく面での、粗雑な探索になってしまう。そのあたりのアナログをデジタルでうまく表現しているのが、大辞林の「インデックス」+iPhone の「フリック」なのではないかと。目的の単語に向かってフリックしている最中に目的外の変な単語が目に留まると、思わずそこを読んじゃうんですよ。休日の昼食後とかに広辞苑(紙)でやっていることとほぼ同じです。ものすごく楽しいですが、時間が潰れてしまうのです。
ジャンプ機能はリンクという限界からの脱却です。例えば。「国際連合」の項目を見てみると、その説明文の中に「安全保障理事会」ということばが出てきます。いま表示されている「国際連合」の項目から「安全保障理事会」の項目に移動するときのことを考えてみます。リンク方式だと「安全保障理事会」ということば全体にリンクを貼りつけて、このひとまとまりを選択することにより「安全保障理事会」の項目へ飛ぶことになるでしょう。が、「安全保障理事会」には「安全」「保障」「理事」「会」「安全保障」「理事会」というたくさんの独立した意味を持つ単語が含まれています。「安全保障理事会」をひとまとまりにしてしまうと、「安全」に飛ばしたり、「理事会」に飛ばしたりといったことができなくなってしまうのです。「国際連合」を調べているときに「安全保障理事会」が出てきたら、次に調べたいのは「安全」でも「理事会」でもなく「安全保障理事会」である可能性が高いです。否定しません。でも。そもそも「安全」って何だっけ?と不安になることはありませんか?「保障」ってどういう意味だっけ?担保がほしくなることはありませんか?この軸のズレこそアナログの神髄です。そしてこのデジタルとアナログの断絶を越えようとするのが「ジャンプ機能」だと私は思うのです。指でするっとなぞるだけってのもスマートで気持ちいいです。うまくなぞれない苛立ちもまた趣です。
ソフトというのは内容もさることながら使い勝手というのがものすごく重要だと思うのです。iPhone のように特異な入力方式をもつハードにおいてはなおのこと。駅探エクスプレス(これにもフリック&タップが絶妙な間合いで利用されています。うなります。HMDTさんの開発だそうで、その意味で大辞泉も試してみたい。が、さすがに辞書ふたつもいらん)の時にも感じたことですが、アップルは「あえて」文字入力をやりにくくしたのではないか、コピーペーストがいつまでも実装されないのももしや、などと穿ってみたりするわけです。iPhone は、私が期待するような、何かを注ぎ込むための端末ではないのかも知れません。