山下

2009年 10月 13日(火)

楠本さんが新しい眼鏡をかけてきた。その黒縁眼鏡が不意打ちにかわいく似合っていたので、眼鏡かわいいですね似合ってますねと朝の挨拶代わりに軽口を叩こうとしたのだが、当然のように失敗。め、め、めが、めが、と吃っている。重すぎる口で籠っている。メガ?メガって何?メガドライブ?と自分で自分に突っ込んで意味もなくニヤニヤし始めたところで、「かわいいですね。その眼鏡似合いますね」と山下が。オレの科白を山下が。いつの間にやら現れて、何の澱みも躊躇いもなく、上司に向かってかわいいとか言うな。ふつうの笑顔でふつうに言うな。

いつもそうだ。山下は本当に抜け目がない。如才がない。屈託がなければ、物怖じもしない。同期入社なのだが、向こうの方が三つ若い。仕事が速い、というか、頭の回転が速い。咄嗟の判断に間違いがない。上からも下からも信頼されている。女子アルバイトたちにも人気がある。背は高いし男前だし人を褒めてのせるのがうまい。口が達者と言うと身も蓋もないが、残念ながら嫌味がない。要するにできる社員なのである。対するオレなど仕事は遅いし頭の回転は停止してるし上からも下からも小突き回されている。女子アルバイトたちからは完全空気扱いだし背も低いし髭だって濃いんだぞ!揚げ句の果てにメガメガなんだぞ!大きなお世話だ!メガフレアー!

山下は去年まで同じ職場の違う部署にいて、今年の頭にオレのいる部署に異動してきた。最初は「ここじゃ僕のほうが先輩だから何でも聞きたまえよ山下君」と尊大な態度だったオレもいまや、「これってどうでしたっけ山下さん」「さすがですね山下さん」「一生ついていきますよ山下さん」などとすっかり平身揉み手の従服姿勢である。なぜそんなにも、仕事覚わるのが早いのか。オレの知らないことを余裕で知っているのか。何かインチキしているのではないか、と、よくよく観察してみるのだが、怪しいそぶりは見せない。テキパキと淡々と、職務を遂行している、ようにしか見えない。観察し過ぎのせいか、頻繁に目が合う。こいつキメェな仕事しろや、とでも思っているのかも知れないが、そういう他者に対する否定的な感情は微塵ほども表出しない。基本的に肯定。全肯定。あなたと目が合ってとてもうれしい、と、目で伝えてくる。なんだその技術は。テクニックは。ていうか。笑うな。そんなさわやかな笑顔で笑うな。まぁ敵対したって仕方ないし勝てないけんかを売るつもりはないし、そもそもオレが勝てるけんかなど、どこにも売ってないわけだが。

その山下も現在妊娠4ヶ月、これでまたさらに差がついてしまいそうだ。そういやいつか「わたしの方がたぶん力あるから」っていつもの笑顔で、大量の資料が入った段ボールを運んでくれたことがありましたね。確かにオレは力はないし背は低いし腰だってくびれてますがあなた、そんな気遣いはどうなのか。「うん、きっとそうだね」と遠慮なく持ってもらったオレもどうなのか。でもまぁ今度はこっちに任せるがいいさ。腕折れそうだけどな。

コメント / トラックバック 3 件

  1. reima より:

    山下さん、ご懐妊おめでとう!!

    って、知らない人だけど。

  2. MasaYan より:

    山下さんすごいなぁ〜。
    Sabanowa の作者さんもすごいと思いますけど。
    いつも便利に使わせていただいています。
    最後に、山下さん、おめでとうございます☆

  3. ハリン より:

    山下はすごいと思うのですが、→
    アマゾン広告も山下づくしで、→
    すごいことになっています。 →

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